
浜本 忠勝 (ハマモト タダカツ ) 神奈川県出身
スウェーデン・東京|美容師・Founder
都内の有名サロンを経て、2018年8月、原宿にヴィーガンビューティーサロン&カフェ「whyte (ホワイト)」をオープン。100%ヴィーガンのドーナツ「VENUTS」なども手がけ、2025年にはスウェーデン・マルメにも出店。心も身体もサスティナブルに、より自然に生きるライフスタイルを提案している。
念願だった、スウェーデン・マルメへの出店。でも、「海外に店を持つ」とは、想像以上に、生々しい現実の連続でした。会社をもう一つ作り、ビザと格闘し、美容師 海外で約1年でサロンオープンを実現。その挑戦の先で、浜本さんは、日本とはまったく違う「働き方」や「サスティナブル」の考え方に出会います。後編では、海外で店を経営するリアル体験談と、北欧で見つけた思想、そして、これから海外をめざす美容師へのメッセージを聞きました。(後編)
海外に会社を「もう一つ」作る


海外(スウェーデン)に店を出す、というのは、感覚としては、「会社をもう一つ、海外に作る」ことでした。日本の会社の、ただの支店を出す、というのとは、ちょっと違う。
whyteのスウェーデンの会社は、日本の会社が100%出資する、子会社という形にしました。お金は、自己資金と、融資を組み合わせて。ここで、日本ではありえない、大きな壁がありました。スウェーデンで会社を作るには、役員が複数必要で、そのうち何人かは、スウェーデンに住んでいる(=現地の滞在資格を持っている)人でないといけない、というルールがあったんです。
考えてみてください。これから海外に進出しようという日本人が、現地に、信頼できて、役員になってくれる人を、見つけないといけない。これは、本当に大変でしたね。ご縁をたどって、なんとかお願いして。会社を一つ作るだけでも、日本の常識が、まったく通用しない。「海外で店を持つって、こういうことなんだ」と、最初の入り口で、思い知らされました。ここは、これから美容師 海外で起業したい人にとって、意外と見落としがちな、大事なポイントだと思います。
スウェーデンで会社を作るには「役員の居住要件」がある
スウェーデンで会社(非公開株式会社=AB)を作るには、取締役の半数以上がEEA(欧州経済領域)内に居住していることが必要です。判断されるのは国籍ではなく「居住地」。たとえば取締役が2人なら最低1人、1人だけなら本人がEEA居住者でなければなりません。代表取締役を置く場合も、原則EEA内の居住が求められます。
出典:スウェーデン企業登記局 Bolagsverket「Residing abroad – limited companies」
ビザという、避けて通れない壁
そして、自分自身の、ビザの問題。これも、海外で働くうえで、絶対に避けて通れません。最初は、ワーキングホリデーのビザで、一旦、スウェーデンに入りました。でも、それだと、長くはいられない。だから今、就労ビザを申請しているところです。
BLUE CANVAS編集部
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就労ビザを取るには、会社としての実績や信用が、すごく問われます。ちゃんと売上があって、税金を納めていて、事業として成り立っている、ということを、示していく。しかも、世界的に、移民や外国人の受け入れが、だんだん厳しくなっている時代でもある。国境の管理も、年々、シビアになっています。だから、「店さえ出せば、あとは住み続けられる」というわけでは、全くない。会社を続けて、信用を積み上げながら、自分の滞在資格も、並行して守っていく。この両輪を、ずっと回し続けないといけないんです。ここは、正直、すごく大変なところです。
たった1年で、サロンオープンを実現。




2024年の12月に、初めてスウェーデンに行って、「やります」と決めた。そして、実際に店をオープンしたのが、翌2025年の12月。つまり、たった1年で、海外でサロンオープンを実現することが出来ました。
この話をすると、周りの人には「え、早すぎる」と驚かれます(笑) 普通、海外出店って、何年もかけて準備するものらしくて。でも、僕は、決めたら動くタイプなので。もちろん、その1年は、めちゃくちゃ大変でした。会社を作って、役員を探して、ビザをやって、物件を整えて、スタッフのことを考えて…。やることが、山のようにあった。でも、「行ける」と思ったときに、迷わず一気に進めた。このスピード感は、我ながら、よかったと思っています。チャンスって、あまり長くは待ってくれないので。
3年前の事故が、英語のスイッチを入れた


海外でやっていくには、当然、語学も必要です。僕、英語は、完全に独学なんです。学校には行っていません。
きっかけは、ちょっと変わっていて、3年程前に、交通事故に遭ったんです。それで、しばらく、思うように動けない時期があって。「この時間を、無駄にしたくない」と思ったときに、「本気で英語をやろう」と、スイッチが入ったんです。そこから、日本にいながら、できることを、全部やりました。
やり方を、少しだけ紹介しますね。オンライン英会話をやって、YouTubeで勉強して、シャドーイング(聞こえた英語を、そのまま真似して声に出す練習)をして。ちょっと面白い方法だと、自分のサロンでのカウンセリングを、英語でやっている想定で録画して、あとで見返して、「ここは、こう言えばよかった」と復習する。あとは、英語で日記(ジャーナリング)を書いて、それをAIに添削してもらう。これを、毎日、2〜3時間。
「海外に住まないと、英語は話せない」と、よく言われますよね。でも僕は、日本にいる間に、かなりの部分を、やりました。もちろん、完璧じゃないですし、今も勉強中です。でも、「環境がないと、できない」んじゃなくて、「やると決めれば、日本にいてもできる」と僕は信じてやってきましたし、これは、これから海外をめざす人に、一番伝えたいことのひとつです。
なぜ、スウェーデンだったのか


「なぜ、スウェーデンなの?」とは、本当によく聞かれます(笑) 理由は、いくつかあります。
ひとつは、前編でもお話ししたように、僕が、新しいことを、誰よりも先にやるのが、好きだから。日系のヴィーガンサロンが、スウェーデンに進出する、なんて、おそらくまだ誰もやっていない。その「誰もやっていない」ということ自体に僕は価値をすごく感じるんです。
もうひとつは、純粋な、知的好奇心です。スウェーデンや北欧って、幸福度が高いとか、サスティナビリティの先進国だとか、色々言われますよね。でも、それって、実際のところ、どうなの?って現地のリアルを自分の目で見て、そこに住んで、確かめてみたかった。街や市場(マーケット)としての将来性も感じましたし、何より、「知りたい」という気持ちが、大きかったんです。実際に暮らしてみると、日本との違いに、毎日のように驚かされました。
スウェーデンと日本、働き方は全然違う
一番違いを感じたのが、「働き方」でしたね。スウェーデンは、ワークライフバランスが、本当にしっかりしている。定時になったら、みんな、さっと帰る。休暇も、長く、しっかり取る。それでいて、国全体の幸福度は、世界でもトップクラス。
日本だと、「たくさん働くこと」「長い時間、頑張ること」が、どこか美徳とされているところが、ありますよね。僕自身、日本では、むしろ朝から晩まで働くタイプでした。でも、こっちでは、その価値観が、根本から違うんです。「人生を、豊かに生きること」が、まず先にあって、仕事は、その一部。順番が、逆なんです。どちらが正しい、という話ではありません。でも、「こういう考え方も、あるんだ」と、大きな衝撃を受けました。自分の中の「当たり前」が、一回、壊されるような感覚でしたね。
「潔くやめる」文化と、スタートアップ


もうひとつ、面白いなと思ったのが、「続けること」への、考え方の違いです。
日本では、一度始めたことは、続けるのが美徳、とされますよね。「石の上にも三年」とか。でも、スウェーデンでは、うまくいっている事業でも、「これ以上は、そんなに伸びないな」と思ったら、わりと潔く、やめる。そして、次の、新しいことを始める。だからこそ、スタートアップが、どんどん生まれる。新陳代謝が、すごく活発なんです。実際、マルメには、大きな企業が本社を移してきたり、新しい会社が次々に生まれたりしていて、街にも活気があります。
「何かをやめる」ことが、ネガティブじゃない。むしろ、次に行くための、前向きな選択。この感覚は、日本にいたら、なかなか持てなかったと思います。僕自身、ヴィーガンのドーナツ事業を、別の会社に譲ったりしてきましたけど、「続けることだけが、正解じゃない」という考え方には、すごく共感しました。始めることと同じくらい、やめること、手放すことも、大事なんだ、と。
サスティナビリティが、生活に根づいている

そして、僕がずっとテーマにしてきた、サステナビリティ。これも、日本とは、レベルが違いました。
スウェーデンでは、サスティナブルであることが、特別なことじゃなくて、生活に、当たり前に、根づいているんです。ゴミの分別やリサイクル、モノを長く使う、資源を循環させる(サーキュラーエコノミー)という考え方ですね。それが、義務教育の段階から、しっかり教えられている。だから、大人になったとき、一人ひとりの「消費者としてのリテラシー」が、ものすごく高い。「これは、環境にいいのか」「この会社は、信頼できるのか」を、みんなが、自分の頭で考えて、選んでいるんです。
日本だと、サスティナブルは、まだ「意識の高い人がやること」みたいな空気感が、まだ正直ありますよね。僕がヴィーガンサロンを始めたときも、そうでした。「変わったことをやっているね」と。でも、スウェーデンでは、それが「普通」この差は、本当に大きいなと感じました。自分がずっと信じてやってきたことが、当たり前に受け入れられている社会に来て、「間違っていなかったな」と、少し報われたような気持ちにも、なりましたね。
北欧とアメリカの、ウェルビーイングの違い

面白いのが、同じ「ウェルビーイング(心と体の健康や、幸せ)」や「サスティナブル」でも、アメリカと北欧とでは、まったく質が違うことです。
アメリカでは、どちらかというと、マーケティングやブランディングが、すごく上手な印象ですね。「これが健康にいい」「これがサスティナブル」と、色んな影響力や広告で打ち出すことでの一種の憧れのような形で、産業として大きくしていく。それはそれで、すごい力だと思います。でも、北欧のそれは、もっと、生活の中に、静かに根づいている。派手にアピールするわけじゃなくて、当たり前のように、そこにある。すごく、本質的なんです。
最初にニューヨークで、ヴィーガンの文化に衝撃を受けた僕が、次にたどり着いた北欧で、また違う形の「本質」に出会った。この二つを、両方この目で見られたことは、自分にとって、大きな財産です。「みんな、サスティナブルであるべきだ」と、押し付けたいわけでも、ない。ただ、こういう世界がある、こういう考え方がある、という「知るきっかけ」を、僕は作っていきたい。世界では、いろんなことが起きています。まず知ることから、何かが変わっていく。それが、僕がwhyteを通して、やりたいことですね。
これから海外をめざす美容師さんへ


最後に、これから海外でキャリアを作りたい、という美容師さんへ。よく、「アシスタントのうちに行くべきか、スタイリストになってから行くべきか」と、聞かれます。僕の考えは、アシスタントでも、スタイリストでも、どちらでもいいけれど、できれば、日本で1年以上は経験を積んでから、行ってほしいですね。
なぜなら、海外で活躍する日本人美容師の強みは、技術だけじゃないからです。日本人ならではの、ホスピタリティ、おもてなし、勤勉さ、思いやり、そして、お客様の要望を察する心。日本人は、世界で一番、美意識が高いと思う。だからこそ、お客様の要求も、世界で一番、細かい。その、厳しくて繊細な環境を、日本でしっかり経験してから海外に出ると、初めて、日本人としての本当の良さを、発揮できるんです。まったく経験のない状態で行くと、「日本人美容師」と言っても、美容師としての経験の大半が、海外になってしまう。それは、少し、もったいない気がします。
そして、もうひとつ。海外に出ると、逆に、日本の良さに、たくさん気づきます。僕自身、もともと日本が嫌いで出たわけじゃ、もちろんないんですけど、行けば行くほど、日本の素晴らしさや、自分が日本人であることの意味に、気づかされました。海外で、自分がマイノリティ(少数派) になる経験を通して、「もっと、日本の良さを、世界に伝えたい」という気持ちに、なっていったんです。
今、日本の文化は、世界から、ものすごく注目されています。だから、若い子や、これから美容師になる子には、ぜひ海外に出て、いろんな価値観に触れて、経験を積んでほしい。そして、そのうえで日本に帰ってきたときに、「自分に何ができるか」まで、考えて動いてほしい。海外にいるときのインパクトも、日本に帰ってからのキャリアも、もっと大きくなるはずです。それが、僕自身が、これからやっていきたいことの、一つでもあるんです。
BLUE CANVAS編集部
東京・原宿にヴィーガンサロンを開き、北欧の街で、日本発のブランドを掲げる。彼の挑戦は、「海外で働く」新しい形だと感じました。その原動力は、「新しいことを、誰よりも先に」という、まっすぐな好奇心と、その自ら行動することで得た経験によって具体化され実現しています。日本と世界を、髪と生活、生き方で繋いでいく。浜本さんの挑戦は今後も目が離せません。
浜本 忠勝 (ハマモト タダカツ ) 神奈川県出身 | 国際文化理容美容専門学校 渋谷校 卒業
スウェーデン・東京|美容師・Founder
都内の有名サロンを経て、2018年8月、原宿にヴィーガンビューティーサロン&カフェ「whyte (ホワイト)」をオープン。100%ヴィーガンのドーナツ「VENUTS」なども手がけ、2025年にはスウェーデン・マルメにも出店。心も身体もサスティナブルに、より自然に生きるライフスタイルを提案している。














