
白川貴久美(シラカワキクミ) | 1996年生まれ
美容師
都内のサロンで経験を積んだのち、ドイツ・ベルリン、イギリス・ロンドンで活動。現在は日本に一時帰国中。
夢だった、ロンドン。そこにたどり着くまで、彼女はベルリンを経由し、いくつもの壁を越えてきました。ドイツで人生一番泣いた3か月、「私が一番です」と言えない苦しさ、そして一気にお客さんがついた瞬間。ベルリンからロンドンへ。国を渡り歩いてきた白川貴久美さん。美容師を続けながらも、その視線は「日本の美とは何か」という、新たな興味に向かい始めています。駆け抜けてきた20代の中で彼女が見てきた世界をインタビューさせていただきました。
ロンドンが、ずっと私の夢だった

高校生の頃からの夢、「世界中の人と働く」を叶えるため美容業界へ。
学生時代に訪れたロンドンに魅了され、日本で基礎技術を学び海外美容師になるために、表参道のインターナショナルサロンで6年間経験を積みました。
私は、ずっとロンドンに行くのが夢でした。コロナのころからワーホリのビザを申し込んでいたのですが、なかなか通らなくて。何度も落ちて、「このままだと、何もしないまま30歳になってしまう」と焦っていました。
そのころ、スタイリストとして顧客が増えてきて、ヨーロッパのお客様も多かったんです。「ロンドンに行きたいのに、行けない」という話を、みんなに話していました。
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最初の海外生活はベルリンへ。

周りと話しているうちに、いろんな都市の名前が挙がってきたんです。パリ、ベルリン、アムステルダム、コペンハーゲン…。そこで私は、ほとんど全員に、アンケートのように聞いてまわりました。「英語は使えるか」「ヨーロッパの人が今、注目している街はどこか」。
その結果、ベルリンが上位に入ってきた。「じゃあ、まずベルリンに行こう。ビザが取れたら、ロンドンに移ろう」。そう決めて、最初の一歩を踏み出しました。
ドイツは英語圏ではないので、サロンも、ドイツ語の現地のローカルサロンと、いろんな国の人が集まるインターナショナルサロンの二つに分かれています。私は、ベルリンにあるインターナショナルサロンを、ほぼ全部、電話して見学させてもらいました。そして、面接まで進めたところに決めました。
ドイツで、人生で一番泣いた

正直に言うと、ドイツに行ってからの3か月は、人生でいちばん泣いた時期でした。アシスタントがつらかった頃や、スタイリストデビュー前より、泣いていたと思います。笑
旅行では、それまで何回も海外に行っていました。でも、「旅行で行く」のと「そこで暮らす」のは、まったく違うんです。旅行なら、困っても数日で日本に帰れる。でも、暮らすとなると、逃げ場がない。言葉が通じない、こまごました手続きに手間取る、頼れる人がいない。その小さな「うまくいかない」が、毎日、積み重なっていく。カルチャーショックは、数え切れないほどありましたね。
「私が一番です」と言えないもどかしさ。

来てから一番苦しんだのは、「自信の見せ方」でした。日本人は、丁寧で、技術力が高い。それは事実だと思います。でも、その前に「自分はこれが出来ます!」「私が一番です!」ってどれだけ前に出てアピールできるか。ヨーロッパで美容師をするには、それがとても大事な要素なんです。
日本には、謙遜する美徳がありますよね。でも、プロとして立つ仕事において謙遜は、「あ、この人は自信がないのかな」と、そのまま受け取られてしまう。私も含めて、多くの日本人が持っている「謙遜」と、向こうで求められる「自己主張」そのギャップが強すぎて、本当に苦しかった。美容師として、「どこまで自分を出していいのか」が、最初は全然できませんでした。
憧れは、年を重ねた女性達の美しさ

そもそも、私が海外に惹かれた根っこには、「美しさ」についての、私なりの考えがあった気がします。
日本の美容の文化って、どちらかというと「可愛らしさ」や「幼さ」を、良しとするところがありますよね。若く見えること、あどけなさが、価値になる。それも、一つの美しさだと思います。でも、私自身が心から憧れるのは、そこではなかったんです。私が「素敵だな」と思うのは、年齢を重ねて、人生をたくさん経験してきた女性の美しさ。その人が生きてきた時間そのものが、滲み出ているような美しさに、強く惹かれます。
そういう「大人の女性の美しさ」が、当たり前に尊重されている世界を、自分の目で見てみたかった。それも、私が海を渡った理由の、一つだったのかもしれません。日本の美的感覚を否定したいわけではないんです。ただ、美しさには、もっといろんな形があっていいはずだ、と。当時の私はその多様さの中に、身を置いてみたかったんだと思います。
ベルリンに来て3か月目。お客様が一気に増えた
自分への自信が、言語も含めて、少しずつ積み重なってきたのが3か月目でした。そこからは、本当にあっという間。びっくりするくらいの速さで、お客様が私についてくれました。東京とは、比べものにならないスピードです。
ベルリンは、大きすぎない街なんです。だから日々インスタをやっていたりするだけで口コミになっていきます。ネットよりも、街での口コミが支えてくれました。トレンドに敏感なエリアがあって、そこを歩いている人が「その髪、誰にやってもらったの?」とお客様に聞いて、すぐに私のところに来てくれる。日本人がコツコツ発信するだけで、すごく目立つ。これは、日本人の強みだなと思いましたね。
ワークライフバランス、という発想がない世界

日本では「ワークライフバランス」という言葉を、よく聞きますよね。でも、ヨーロッパにいると、その言葉自体を、あまり考えないんです。なぜなら、ホリデーを取ることが「前提」でバランスを取ろうと必死にならなくても、休みは、当たり前にそこにある。3ヶ月に一度は大きなホリデーを取って、知らない街に行ったり、リセットしたり。そういうことが、無理に予定を組まなくても、日常になっている感じです。
夢だった、ロンドンのサロンへ

ベルリンで1年ちょっと働いて、フリーランスビザに切り替えようとしていた、ちょうどそのとき。念願だった、ロンドンのビザが取れたんです。だから、スライドするような形で、ロンドンに移りました。
ロンドンで、まず入ったのが「Blue Tit(ブルーティット)」というサロンです。ここは、私にとって、ずっと夢の場所でした。VOGUEやELLEといった雑誌に載る、トップサロン。何店舗もあって、トレンドに敏感な人たちが集まってくる。ロンドン 美容師としては一番魅力的な存在でした。
実は、若いころの私は、トニー&ガイや、ヴィダル・サスーンといった、クラシックで有名な大手しか知らなかったんです。でも、ヨーロッパに行ってみて、印象が変わりました。そういう老舗サロンは、どちらかというと、年配のマダムの方々が多いこともあって私はBlue Tit(ブルーティット)を選びました。
そのブルーティットには、アジア人が、一人もいませんでした。でも、だからこそ、「自分を試してみよう」と思ったんです。技術チェックと、オンラインの面接を受けて、入れてもらいました。正直、ここで一生やっていくつもりでした。それくらい、憧れの場所だったんです。
ですが、ビザの関係もあって「この先、スポンサービザを出すのは難しいかもしれない」という話をマネージャーから聞かされました。
ちょうど、そのタイミングで、別のサロンが新しくオープンしたんです。ご縁があって、面接を受けて、そちらに移ることになりました。少し寂しさもありましたが、移ったサロンには、そこにしかない良さがあって、現地のサロンにはない、パッションというか、エネルギーがあってそれもすごくいい経験になりました。
お金と暮らしの目安。ベルリンとロンドンの比較
- 日本出発前の貯金:100〜150万円くらい。家賃のデポジット2か月分、航空券、荷物の配送料などを払うと、当時出発の時点では100万円を切っていたかもしれません。
- 家賃:ベルリンは、900〜1000ユーロくらいで、一人暮らしができました。ロンドンは、ほとんどの人がシェアハウス。それでも1000ポンド(約20万円)くらい払っている人が多いです。家賃も交通費も、ロンドンのほうがずっと高い。
- チップ:ドイツもロンドンもチップはありますが、絶対ではなく、気持ちで。だいたい10〜15%くらい。端数を足してくれる感じです。
日本の美意識を、学び直したい

外の世界を見たからこそ、日本の文化や、自分たちの美意識にもう一度目を向けて行こうと思いました。「私たちは、なんでこういう美意識を持っているんだろう?」と。
日本には、その理由を日本の伝統文化や哲学そして芸術、デザインのあり方を学べる大学があります。まだ願書は出していないのですが、今年、受けてみようかなと思っています。2〜3年はかかると思いますが、そういう学びと、美容の仕事を、これから絡めていきたい。それが、30代に入ってからの目標の一つです。
海外で働いていると、「日本人は丁寧」「技術が高い」と、よく言われます。それは本当だと思います。ですが世界に目を向けていろんな国の文化や歴史を知った今だからこそできる私なりのアプローチがあると思うのでそういった事を今後やっていけたらいいなと思っています。
これから海外美容師をめざす人へ
「自分は何を持って、そこに行くのか。何をしにいくのか。」それを、はっきりさせておくことが海外生活の支えになります。
海外での暮らしを楽しみたいのか。技術で、本気で勝負したいのか。目的によって、選ぶ国も、働くサロンも、日々の過ごし方も、まったく変わってきます。「なんとなく、海外は良さそう」というだけで来てしまうと、たぶん、どこかで迷子になる。逆に、自分の軸さえはっきりしていれば、壁にぶつかっても、「私は、これがしたくて来たんだ」と、立ち戻る場所があります。私自身、20代の「ロンドンに行く」という一点の軸が、どれだけ苦しくても、私を前に進ませてくれました。
私の経験が誰かの役に立てれば幸いです。
BLUE CANVAS編集部
ベルリン生活で泣いた3か月、夢だったロンドン。白川貴久美さんのキャリアは、そのステージごとに、「自分はどう在りたいか」を自分自信との対話を通じて歩んでこられたように感じました。そして今「日本の美とは何か」という新しい興味へと向かっています。走り続けた先で立ち止まり、もう一度考える。そうして気づく新しい価値観や視点は色んな国の習慣・文化を肌で感じてきた彼女らしいさを感じるインタビューでした。
白川貴久美(シラカワキクミ) | 1996年生まれ
美容師
都内のサロンで経験を積んだのち、ドイツ・ベルリン、イギリス・ロンドンで活動。現在は日本に一時帰国中。











